───── Cobra
朝日が徐々に顔を出し、それをきっかけに小鳥達のさえずりが森の中にこだまする。
静かに、だが確実に夜の闇は薄くなって行った。もうすぐ夜が明ける。
そんな平和な朝を台無しにする
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
絶叫。
誰だろうこんな朝っぱらから、と言わんばかりの多くの視線が、
叫び声の元凶がいるであろう部屋のドアに注がれる。
エディ「うー・・・眠い・・・・朝っぱらから何やってんのよぅ・・・。」
エディがドアを開けると、自分の荷物袋を必死にまさぐるピックの姿があった。
背中に生えている二枚の羽と、人一倍小さな姿は彼がフェアリーである事を物語る。
ピック「ない・・・・・・・・・・・。」
エディ「何が?」
ピック「メリルちゃんにあげようと思ってたエンプレスコロンがない・・・・。」
エディ「アンタ、コロンなんてつけるの?女装趣味?」
寝ぼけているのか全く話を聞いていないのか。エディはイマイチ状況を把握出来ていない。
そこへ同族のメリルがやって来た。凄い髪形をしている。
こちらも寝ぼけ眼で開いたドアから顔を覗かせている。
メリル「ピックく〜ん・・・・どうしたの〜?」
ピック「ビクッ!」
一瞬にして固まってしまうピック。
エディ「アンタにあげようと思ってたコロンをなくしちゃったんだって。」
ピック「ああ!言っちゃダメだってば!・・・・しっかり話聞いてるじゃんかさぁ・・・。」
コロンと聞いてメリルの表情が変わる。
メリル「えええええ!どこどこ!?どこにしまったの?」
ピック「メリルちゃん目の色違う・・・。」
メリルがピックに近づき、首根を掴みながらガタガタ揺さぶっている。
メリル「ピック君!どこにしまったの!?」
ピック「く、苦しひ・・・・離してよ・・・・。」
話を聞くに、遺跡探索から戻って鑑定屋に見せるまではちゃんと手元にあったと言う。
鑑定してもらいコロンを受け取ると、自部屋に戻ってストックボックスの中にしまったのだが・・・・。
エディ「ストックボックスの中にもコロンらしき物はないわ。」
ピック「うん、荷物袋も調べてみたんだけど・・・・。」
ガックリ肩を落とす。そこにイシェイルがやってきた。
イシェイル「あらぁ、珍しく皆早起きね〜。お姉さん感心するわぁ♪」
起きたくて起きたわけじゃない、とエディは心の中で叫んだ。おまけにパジャマ姿だし。
と、イシェイルからほのかに香る香水の匂いをメリルの鼻は感じ取った。
メリル「あの・・・イシェイルさん。」
イシェイル「何かしら?」
メリル「今日は香水をつけてるの?」
イシェイル「ええ、そうよ。今日こそアルヴァ君のハートを射止めるわっ!」
エディ「・・・・・・。」
エディの背後に殺意の炎がうっすらと燃え上がっている。
ピック「香水・・・・・?」
一同の視線がイシェイルに集まる。
イシェイル「な・・・何?一体何事?」
状況を全く理解していないイシェイル。ピックの話を聞いてやっと納得したのか
イシェイル「ああ、あれね。」
ピック「!!!見かけたんですか?」
イシェイル「ええ、あれってピック君の物だったの?」
メリル「え・・・・まさか・・・・」
いたずらっぽい笑顔を作ると、顔の前で手を合わせ
イシェイル「えへへ・・・ごめーん。」
イシェイルが昨日あった事を白状した。
食事を終えてアルヴァにじゃれようと思ったら、部屋のドアは厳重にロックされており
何度もノックして入れてもらおうとするが、結局最後までドアは開かなかった。
(ちなみにアルヴァはすでに寝ていた)
そこで、ピックの部屋に遊びに行こうと思いドアを開けたら・・・・
イシェイル「ピック君がかわい〜ぃ寝顔だったから、少しだけベッドに入れてもらっちゃったの♪」
ピック「えええええええええ!勝手に入ってこないでよぉ・・・。」
メリル「ピ・・・・ピック君?」
困り顔のピックと、怒りをあらわにするメリル。イシェイルの犠牲者は後を絶たない・・・・。
それまで黙っていたエディは事の真相を追究しようと、イシェイルに疑問を投げかけた。
エディ「で、なんでピックの持っているコロンをあんたがしてるの?」
イシェイル「それはねぇ・・・・。」
眠っているピックにじゃれつくイシェイル。ふと、彼のストックボックスから良い香りがしてくる。
イシェイル「何かしら・・・・この香りは。」
ピックのストックボックスを開けてみると・・・
イシェイル「エンプレスコロンだわ!」
何でわかったのよ、とエディは思った。鑑定屋じゃあるまいし。
イシェイル「あれ、てっきり私にくれるんだと思っちゃって・・・ホントにごめんねぇ。」
エディ「アンタ・・・普通そこで自分の物にする?」
メリル「それって泥棒じゃあ・・・。」
こくこくと頷くピック。冷汗だらだらのイシェイル。心なしか笑顔がこわばって見える。
そこにアルヴァが通りかかる。
アルヴァ「あれ、珍しく皆早起きしてるんだね。」
イシェイル「あ、あ、あ、あ、アルヴァくぅ〜ん、助けてぇ!」
危機脱出のチャンス!
愛の警報機(?)がサイレンを鳴らし、ある意味本能剥き出しと思われる行動に出た。
アルヴァ「う、うわぁ!な、なんスか?」
イシェイル「みんながね、私を泥棒扱いするの〜・・・。」
嘘っぽい涙声で抱きつくイシェイル。
アルヴァやユーリィに勝るとも劣らない腕力でがっちりキャッチ!
(本人談:勝るとも劣らない『愛のパワー』って言って頂戴!)
ブチ切れたエディと、反省の無さそうなイシェイルに不満げなメリル。への字に口を曲げ、
エディといったらすでにやる気だ。
エディ「アンタ!アルヴァにまとわりついて逃げようなんて事考えてないでしょうね!」
メリル「そうよ!せっかくピック君が私にくれるっていうのに!」
三人は表に出るやいなや魔法(と文句)の激しい戦いを繰り広げていた。
ティーン「お!朝っぱらからトレーニングかぁ。関心関心。」
ティシア「ぜったい違うと思う。」
一方、嵐の去ったピックの部屋では
アルヴァ「なるほどね、それで今朝凄い声がしたワケか。」
ピック「うん・・・・。」
すっかり落ち込んで、顔を上げようとしないピック。
ファナ「大丈夫ですわ、きっと良い事がありますわよ。」
とファナがなだめる。アルヴァはかけてやる言葉が見つからず四苦八苦していた。
そこへユーリィがやって来た。手に持ったカゴには大量のハーブがつんである。
ユーリィ「あれ〜?どうしたの?」
アルヴァ「実はねぇ・・・・。」
今朝起こった事と、イシェイルがやらかした事を全部説明する。
ユーリィ「そうなんだ〜、ピック君がメリルちゃんに香水をプレゼントねぇー・・・。」
アルヴァ「うん、どうにかなんないかなぁってさ。」
ユーリィ「うーん・・・。」
少し考えて
ユーリィ「わかった!僕に任せて!」
ピック「え?」
ユーリィ「魔法アイテムのような出来じゃないけど、ハーブを使って香水を作るから。」
沈んでいたピックの顔に見る見る笑顔が戻って行く。
ピック「ほ、本当に?作ってくれるの?」
ユーリィ「うん!困ってる人はほっとけないもん!」
アルヴァ「良かったなぁピック。そうと決まればホラ、表で取っ組み合ってる三人を止めよう。」
ファナ「良かったですわねぇ♪ユーリィさん、私も何かお手伝いしましょうか?」
ユーリィ「うん、ありがと!」
表、酒場の外の広い庭では熾烈な戦いが繰り広げられていた。
エディ「元はといえばアンタが全て悪いんでしょうが!」
イシェイル「それはちゃんと謝ったでしょう!キーキー騒がないで頂戴!この胸なし小太り女!」
エディ「なんですってぇー!このキチガイ年増王女!」
言い争いをしているのはエディとイシェイルだけ。メリルはどこだろう?
メリル「はぁ〜あ・・・・。」
彼女は二人のペースについて行けず、宿屋の玄関で一人腰をおろしていた。
メリル「ピック君・・・・私にプレゼントしてくれるなんて・・・・。」
空に浮かぶ雲がピックの笑顔と重なって見えた。
メリル「はぁ〜・・・・。」
落ち込むメリルの後ろで誰かの声がした。
ピック「おぉ〜い、メリルちゃ〜ん!」
メリル「あ!ピック君。」
ピックだった。手には薄い紫色の液体が入った小瓶を持っている。
ピック「はーはー。あのねメリルちゃん。これ・・・。」
それが香水だとメリルにはわかった。かすかなハーブの匂いが鼻をくすぐる。
メリル「これは?」
アルヴァ「ユーリィとファナが作ってくれたんだよ。落ち込んでるピックを励まそうと思ってね。」
メリル「そうだったんだ・・・。」
ピック「エヘヘ、驚いた?」
メリル「うん、ありがとう!」
二人の顔が最高の笑顔で満たされる。
アルヴァ「良かったなぁ。二人とも。」
ユーリィ「ユーリィ特製の世界に一つしかない香水。大事に使ってね!」
メリル「うん!本当に有難う御座います。」
ファナ「目出度し目出度し、ですわ♪」
ピック「ところで・・・。」
ピックが言い争いをしている例の二人を指差す。
ピック「あの人たち、どうしようか?」
アルヴァ「うーん・・・。」
止めるか止めないか、悩んだ結果
アルヴァ「放っておこう。」
ユーリィ「うん、そうだね。喧嘩するほど仲がイイって言うし。」
ファナ「そうですわね。」
修羅場と化した宿屋の庭を後にした。
魔法(と文句)の激しいバトルは未だに続いている。
エディ「はあはあ・・・アンタ、エルフのクセになかなかやるじゃない。
ま、ウィザードの私にはかなわないだろうけどね!」
イシェイル「はあはあ・・・うふふ、あなたこそ。
スタイルの良さではエルフの私にかなわないでしょうけどねぇ♪」
その後も二人は魔法(と文句)の戦いを止めなかった。いつもの事なので誰も止める者はいない。
精神力が尽き、ダウンする頃にはすっかり日は落ちていたという。
=END=
※筆者より
エディ「ちょっと!中途半端なところでシメないでよ!」
イシェイル「そうよ、筆者さん!私の華麗な戦い振りをもっと書いてぇ〜ん♪」
はっ!し、失礼しました。(営業スマイル)
私の駄文を最後まで目を通していただき有難う御座います。
今回はピックとメリルが主役だったのですが・・・
約二名の喧嘩コンビに打ち壊されてる気がしますね・・・。ごめんなさい。
キャラの見た目と小説での性格はあまり合わせていません。
ゲーム中での女エルフは気品あふれるお姫様のような感じですが、
ここに出てくるイシェイルはちょっぴりクセがあります。
なので、お読みになられて皆さんが抱いていたキャラに対するイメージが
崩れるかもしれませんが、一個人が書いた物ですのでその点はご容赦下さいませ。
最後まで読んでいただき有難う御座いました。