空へ

───── Cobra

「俺さぁ、小さい頃からずっと夢見てたことがあるんだ。」
うららかな日の光が差し込むキッドの酒場。
テーブルを囲んだ仲間達に自分の夢を話して語る一人の少年がいる。
少年の名はアルヴァ。長い前髪をバンダナで無理矢理上にあげ、動きやすそうな服装をしている。
右足の太もも脇にダガーを下げているところを見ると冒険者であることがすぐにわかる。
ユーリィ「な〜に?アルヴァ君の夢って。」
アルヴァ「笑わないで聞いてくれよ?」
エディ「もったいぶらないで早く言いなさいよ。」
アルヴァ「俺さ・・・空を飛びたいんだ。」
しーん・・・なんか気まずい事言ったか?とアルヴァは少し後悔した、が。
ユーリィ「すごーーーーーい!」
驚いたユーリィが思わず声をあげる。周りの冒険者達も驚きの表情でアルヴァを見る。
エディ「アンタには無理だろうけど、いい夢なんじゃない?」
と、冷めた感じのエディ。
アルヴァ「でもなー、空飛ぶって言っても・・・ドミニオンフェザー使ってバタバタやってみたけど
 飛び上がる気配すら感じないし。」
エディ「はぁ?」
アルヴァ「鳥みたいに羽使えば飛べるもんだろ?」
巻き起こったざわめきが一瞬で消し飛ぶ。
今度こそまずい事言った、そう確信するアルヴァにエディの冷たいお言葉。
エディ「そうね、丘の上から落下したら飛べるかも。
 まーそれまでにいくつのドミニオンフェザーが壊れるか知らないけどね。」
笑いと嘲笑の嵐。
テーブルに突っ伏してクスクス笑う者、飲んでた酒を噴き出す者、
酒場は一瞬にしていつもの賑やかさを取り戻す。
アルヴァ「そこまで笑わなくても・・・。」
しょんぼり肩を落とす。だがユーリィはそんなアルヴァに希望を宿した視線をおくる。
ユーリィ「やろうよ!一緒に頑張ろう!」
エディ「やめときなさいって。どうせ無理よ、無・理。魔法にすら空飛ぶ呪文なんてないんだから。」
呪文?・・・・・そうだ!
アルヴァ「確かエディはテレポート使えたよな。」
エディ「それが何?まさか空中にテレポートさせて飛ぼうって言うの?」
アルヴァ「わかってんじゃん!そうと決まれば早速!」
エディ「私まだ何も言ってないわよ!」
ユーリィ「まあまあ、とりあえずやってみようよ〜♪」
アルヴァとユーリィに両腕をむんずとつかまれ、有無を言わせぬ腕力で引きずられて行く。
エディ「ちょっと!いやよ私は!」
二人には聞こえていないらしい。いや、無視しているに違いない。
酒場を出て、ちょうどそこをプリーストのファナが通りかかる。
エディ「あ、ファナ!見てないで助けてよ!」
ファナ「あら、エディさん。それにアルヴァさんとユーリィさんも。どちらへ行かれるんですか?」
アルヴァ「ああ、ちょっと散歩にね♪」
ユーリィ「うん、散歩散歩♪」
思いっきり怪しそうな笑顔を作るが、おっとりファナには気づかれない。
ファナ「そうなんですか〜。魔物には気をつけて下さいね。」
アルヴァ「ありがと!じゃ、行ってくるよ。」
ユーリィ「行ってきま〜す!」
元気に宿屋のドアを開ける二人。一方エディはというと・・・
エディ「きゃああああああああ!拉致される〜、助けて〜!」
などと騒いでいるが、みんなに無視された挙句
「うるせぇぞ!」とファイターのディーンから罵声を浴びせられる始末。
エディは過去の自分の映像を走馬灯のように眺めていた。

ここは白銀の谷。雪深い山々から流れてくる冷たくて綺麗な雪解け水はとても美味しい。
アルヴァ「うぅぅぅぅ、寒いなぁ。もう少し高いところまで行かないと・・・。」
ユーリィ「わぁ〜い!雪だぁ♪」
エディ「あんまり大きい声を出さないで。雪崩に巻き込まれたらどうすんのよ。」
しばらく歩き続けると頂上まで辿り着いた。あたり一面銀世界。
冷たくたたずむ青い湖面を太陽が照らし、日光を反射させた雪がキラキラ輝いている。
アルヴァ「よーし。さ、飛ぶぞ!エディ、テレポート頼む。」
ユーリィ「ねーねー、飛ぶって言ってもどこに向かって飛ぶの?」
エディ「そうよね、湖に落ちたら凍死しちゃうわね。」
悩む三人。そこへ大きな影が近づいてくる。
「お前たち、ここへ何をしに来たのだ?」
影の正体はグリフォンだった。大きな翼と長いクチバシ、鋭い爪が
凶暴さと同時に凛々しさをかもし出している。
アルヴァ「げ!せ、戦闘態勢!」
アルヴァの掛け声と共にユーリィとエディが身構える。
ユーリィは弓を引き狙いを定め、エディはお得意の炎系魔法「エクスプロード」を詠唱し始める。
グリフォン「まぁ、待て。お前達とてわけもなくここまで来たのではあるまい?」
相手に戦意がない。警戒を解き、アルヴァが理由を話した。
アルヴァ「実は・・・。」

グリフォン「はっはっはっはっはっはっはっはっは!」
アルヴァ「そこまで笑わなくてもいいだろう・・・。」
グリフォン「いやいや、済まぬな。」
豪快に笑い飛ばすグリフォン。
それもそのはず、ドミニオンフェザーを羽ばたかせたくらいで簡単に空を飛べると思っていたからだ。
エディ「だから言ったのよ。無理だって。」
ユーリィ「無理じゃないもん!」
アルヴァをかばう様にムキになって反論するユーリィ。つんとそっぽを向くエディ。
グリフォン「何故空を飛びたいと思ったのだ?
 そこまで無茶な事をするからにはそれなりの理由があるはずだ。」
アルヴァ「それは・・・。」
事の真意をアルヴァは打ち明けた。
それはアルヴァが小さい頃に住んでいた町の環境が絡んでいた。
アルヴァが住んでいた町は治安が乱れており、
人殺しや強盗が日常茶飯事に起こっているほどだった。
そんな町は規制も厳しく、ろくに外を出歩けないくらいだった。
部屋の中からしか見下ろした事のない町の姿。
だが、狭苦しく思う町を覆い尽くすように蒼い空はどこまでも広がっていた。
あそこには何があるのだろう?自由に遊べるのかな?
小さなアルヴァはいつもそう思っていた。
父や母に空の事を聞いてみたが、誰も空を飛んだことがなかったため
コレといった面白い話は聞けなかった。
鳥になりたいなぁ、どこまでも続くであろう空を自由に飛び回ってみたい。
太陽や流れ星を追い越して。
そして自分の生まれ故郷を雲の上から眺めてみたい。
そして・・・・・自由になりたい。
グリフォン「・・・・・・・。」
アルヴァ「ちっぽけな夢かなぁ?」
照れくさそうに頭をボリボリかきながらアルヴァは言った。
グリフォン「そうか・・・それで空を飛びたいと?」
アルヴァ「うん、自分の目で確かめて見たいんだ。空ってどんなものかな〜って。」
ユーリィ「僕も飛んでみたいなぁ。」
エディ「私も。」
みんながアルヴァの考えに同意した。アルヴァの過去を誰も知らなかったからだ。
と、おもむろにユーリィが手のひらを合わせグリフォンに頼み込む。
ユーリィ「ねぇグリフォン。お願い!僕達をその背中に乗せて!」
エディ「はぁ?何いってんの?」
グリフォン「・・・・・・・。」
ユーリィ「アルヴァ君に見せてあげたいの・・・。」
アルヴァ「ユーリィ・・・。」
少し間をおいて
グリフォン「良いだろう。ただし、一度だけだ。フォレシアを一周したらここにまた戻ってくる。
 それでいいか?」
アルヴァとユーリィの顔に笑みが戻る。エディは信じられないといった面持ちだ。
アルヴァ「ホントに良いのか?」
グリフォン「ああ、かまわん。お前達に教えてやろう、空の素晴らしさを。」
バサッと大きな翼をはためかせる。
グリフォン「さあ、我の背中に乗れ。しっかり掴まっているのだぞ。落ちても知らないからな!」
強い風が湖面を揺らしたかと思うと、彼らの姿はそこから消えた。

アルヴァ「すっげぇぇぇ・・・・・。」
身震いするほど空は広かった。
漂う雲をかきわけ、照りつける陽光を浴びながら真っ直ぐ飛んでいく。
少しすると海に出た。穏やかな海面を波が踊り、浜辺を行ったり来たりしている。
ユーリィ「あ!宿屋だ!」
アルヴァ「ホントだ、小さいなあ。」
宿の二階の窓から誰かが顔を出し、こちらを見ている。
エディ「まさか私達が乗ってるなんて知らないでしょうね。」
アルヴァ「だな。」
クスクスと笑い出す。
普段なら見上げるような大きさの塔も、空からは手の指と変わらないくらいに見えた。
超越者「ヴァンパイアロード」が住んでいると言われる城もハエ叩きで潰せるようなサイズだ。
エディ「私は天空の覇者、エディ様よ!オ〜ホホホホ♪」
顎に手を当て、お嬢様のような言動でエディが言う。
ユーリィ「誰にいってんの?」
エディ「う、うっさいわね・・・。」
アルヴァ「あはははははは。」
自然と会話がはずむ。今日はパーティにとって最高の休暇となっただろう。
グリフォン「気が変わった。お前達に最高の景色を眺めさせてやろう。」
そう言うとグリフォンはフォレシア中央部にある最も高い山の頂上に降り立った。
ユーリィ「最高の景色?なんだろう・・・。」
エディ「あれを見て!」
エディが指差した方向を向くと、そこには海に沈み始める太陽の姿があった。
アルヴァ「綺麗だなぁ・・・・。」
絶景。
今まで一度も見たことがなかった。
フォレシアの一番高い場所で日没を拝めたのは後にも先にも彼らだけに違いない。

数刻後、白銀の谷のふもとに彼らの姿はあった。
アルヴァ「グリフォン、今日はありがとう。」
グリフォン「なに、我も人間達の話が聞けて楽しかったぞ。」
すっかり日が落ちていた。三人はグリフォンに礼を述べ、宿屋への帰路を歩き始めた。
宿につく頃には光り輝く星達が空を埋め尽くしている。
宿の外では心配そうにしているファナが三人の帰りを待っていた。
ファナ「お帰りなさ〜い。食事の準備が整ってますわよ〜。」
アルヴァ「ただいま〜、遅くなってゴメンよ。」
アルヴァの背中で寝息をたてていたユーリィが寝ぼけ眼で目をこすっている。
エディ「あ〜、今日は最高だったわ!」
アルヴァ「うんうん、楽しかった〜。」
ファナ「何が楽しかったんですか?」
ユーリィ「えへへ、実はね・・・。」

キッドの酒場でみんなは夕食をとっていた。
そんな中、熱を帯びた話題はやはり・・・
マスター「すっげーな!お前らグリフォンに乗って来たってのか!」
ファナ「羨ましいですねぇ。どうして私を誘って下さらなかったんですか〜?」
ローランド「ユーリィ、なんで私に話してくれなかったんだ。」
マグラット「コラ、エディ!心配しとったんじゃぞ。」
アルヴァ、ユーリィ、エディに冒険者達の視線が集中する。
アルヴァ「いや〜、マジで最高だったよ。時間が経つのも忘れてさぁ。」
ユーリィ「あのね、とっっっっっても高い山から夕日を眺めたの!すごく綺麗だったなぁ・・・。」
エディ「そうそう、超越者の城なんかアリんこの住処と変わらないくらいだったわよ。」
各々が見た風景を口々に語る。そこにコソコソと近づく怪しい影があった。
イシェイル「うふふ、アルヴァくぅ〜ん♪」
エルフのイシェイルだ。何やら企んでそうな雰囲気だが。
アルヴァ「・・・・な、なんスか?」
後ずさりしながらアルヴァが問う。そんなアルヴァを彼女は逃がさなかった。
とっさにアルヴァの横に回りこみ、首の周りへと手をまわす。
イシェイル「ウフフフ♪」
アルヴァ「ハ・・・ハハハ・・・ハハ・・。」
蛇に睨まれたカエルのようだ。顔が引きつっている。
イシェイル「ねぇ、今度私も連れて行って。いいでしょう?」
色っぽい笑みと共にふぅーっと息を吹きかける。アルヴァKO寸前。
イシェイル「ねぇってばぁ、お・ね・が・い♪」
エディ「ちょっと!アルヴァに近づかないでくれる?」
語気を荒げてエディが文句を言う。それをさらっと流すように
イシェイル「私はアルヴァ君に聞いてるの。ねぇ、どうなのぉ?」
と、また甘い笑みを浮かべ抱きつく。アルヴァの目は完全にイっている。
エディ「このアマ・・・私を差し置いてアルヴァにちょっかい出すなんていい度胸じゃない?」
イシェイル「あら、私と張り合う気?
 まあ張り合ったところで結果は見えてるでしょうけどね。貧乳魔道士。」
エディ「なんですってぇー!この妖怪色仕掛けババァ!」
イシェイル「ぶ、無礼者!表に出なさい!」
エディ「こら、アルヴァ!ボサっとしてないでなんとか言いなさいよ!」
イシェイル「そうよ、アルヴァ君!あんな小娘なんかパパっと追っ払って頂戴!」
ユーリィ「ああ、気まずい雰囲気。」
はっとアルヴァが我にかえる。絡み合ってる二人を差し置いて酒場の出口へ全力疾走!
アルヴァ「わ〜、追いかけてくるな〜!」
エディ「コラァ待ちなさいよ!」
イシェイル「アルヴァく〜ん?お姉さん怒るわよっ!」
満天の星空の下、アルヴァは二人から必死に逃げ回っていた。
その後も酒場では話が盛り上がり、夜中まで明かりが消えなかったという。

信じる気持ちを忘れなければ、夢は必ず実現できる。
俺はそう信じているよ、果てしなく続く蒼い空を知ることが出来たからね。 〜アルヴァ〜

=END=



※筆者より
長い文章を最後まで読んで下さいましてありがとう御座います。
アルヴァの夢である「空を飛びたい」という気持ちは自分の過去にも当てはまる事です。(^^;
言わば、自分の夢を小説にしB&Bキャラに演じてもらった、という感じでしょうか。
少々臭い話ですね。ギップリャ!
キャラ名はデフォルトの方が馴染みやすいかなぁと思いまして、そのまま生かさせてもらいました。
最後になりますが、私の駄文を読んでいただき真に有難う御座いました。